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colon / おはなし
:◆印については補足のページで解説

■ 第一話 ■


ある日ある夜、王都より遠く離れたとある村。
三日月の夜空にひとつの人影が現れた。



派手な音ともに小屋に落下した娘は、そのまま屋根を突き破ってなかへ落っこちた。
「あいたたた〜、なんとか無事に…ん?」

落ちてきた娘はなにやら下に違和感を感じからだを起こす。
土埃と瓦礫の中、娘のお尻の下では少年がひとり伸びていた。



「うう…ん、きみは?…あっといけない!すぐに外へ出て」
目を覚ました少年は慌てて娘の手を引き小屋から離れ、ふたりは草むらへ隠れた。
「納屋を壊しちゃってわるかったな〜って思うけど、なにがどうしたの?」「ごめんね、静かに」◆1.

声を潜めていると、やがてどこからともなく異形の石像が集まってきた。
動く石像たちは小屋を取り壊し異常がないか探るような動きをしている。



「なにあれ、このへんの森にはゴーレムが住んでるの?」「…うん、まぁすこし」
ゴーレムたちに見つからぬよう、ふたりはそっとその場をあとにした。
「あとあそこ納屋じゃなくてボクの家だよ」「うそ!?ごめん」◆2.

石像たちから離れた森の中、一息つくとふたりは話し始めた。
娘は少年に”ミン”と名乗った。少年も自分は”シンク”だと返した。
シンクの思ったとおり、ミンはこの村の人間ではなく、王都を目指し旅をしているのだという。

「さっきのはこの辺の魔術師の使いか何か?」
「いや違うよ、なんていうか村の警備兵みたいなもの…かな。ちょっと乱暴だけど」

「ならほかに魔術師を知らない?いろいろ聞きたいわ」
「いるにはいるけど…協力は難しいとおもうよ」
シンクの案内で夜の森を奥へ行くと、やがて一軒の家が見えた。魔女の住む家だった。◆3.



「小僧の知り合いだからって特別扱いはしないよ!
さっきの大音はあんたらじゃろ?厄介ごとを持ってくるやつなんざ尚更だ」
見た目どおり頑固そうな老婆に一蹴されたミンだが、
荷物から一冊の本を手土産にと手渡しすと反応が変わった。

「…おまえさん魔術師じゃないね。どこからこれを手に入れた?」
「知り合いにもらったのよ。ちょっとだけ協力してほしいんだけど、どう?」
「ふん、話してみな」◆4.
「これ知ってる?」ミンの手には小石ほどの四角いサイコロのようなモノがあった。

魔女の眉間に深いしわが寄る。
「やれやれ、そういう話ならこれだけじゃ足りないね。もうひとつ頼まれてもらおうか」
魔女の提案は至極シンプルだった。
しずかに傍で聞いていたシンクの表情にやや影がおちた。






”この村に居座る保安兵を片付けろ”

魔女の頼みを受け、やってきた兵舎の中には男がただひとり壁にもたれるようにして座っていた。
ターゲットであるこの村唯一の保安兵・シーゲルだった。◆5.◆6.

シーゲルは生気のない双眸を光らせおぼつかない足取りで立ち上がるとゆっくり歩きだす。
すると彼の周囲の地面から石像たちが這い出した。◆7.

ミンは手のひらに小さな四角を取り出すと、それをパキンと軽く握り壊した。
軽く振った彼女の手には一本の刀が握られていた。◆8.

「あたしに手伝うかどうかはあなたに任せるわ。ひとりでも余裕だけど」
となりにいるシンクにそう言うと刀を構え、ミンは敵の群れへと飛び込んだ。

ややあって、決意したようにシンクはミンと同じようにして槍をとりだし、彼女のあとを追った。◆9.



石像を生み出し操るという魔術のような異能に苦戦するも、
乱戦の果てにミンの刀がシーゲルの胸を薙いだ。

最後まで憑かれたように戦おうとした異能の男も、
その力を使い果たし地面へ座り込んだのだった。◆10.



すると、男の体が光の粒子になって徐々に消えはじめる。
シンクは駆け寄ると彼の手を強く握った。

やがてすべての光とともにシーゲルは消えていった。◆11.◆12.
ミンはふたりに背を向けていた。すべて消え去るまで、傍で背を向け立っていた。

ミンたちは魔女のもとへ戻ると経緯を伝えた。
魔女から報酬として、さまざまな話を得るとミンは村を出発することにした。◆13.

「ねぇ、ボクもいっしょにいくよ。王都まで道案内もいるだろうし、きみを手伝いたい」
「ほんと?ありがと!助かるわ、正直右も左もわからないのよ、ここ」



「そういえばミンはどこからきたの?」
「遠ーい国。シンクにはちょっといけないところ、かな」
そして王都を目指しふたりは歩く。◆14.

つづく




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